· 

大威徳明王と爬虫類人種

ヤマーンタカ 


大威徳明王について。三輪身説によれば、大威徳明王は阿弥陀如来(自性輪身)、文殊菩薩(正法輪身)に対応する教令輪身で、阿弥陀・文殊が人々を教え導くために敢えて恐ろしげな姿をとったものとされる。(阿弥陀如来と、本来釈迦如来の脇侍であるはずの文殊菩薩が一体化しているのは奇妙なことである。大威徳の特性かもしれない)。


梵名のヤマーンタカとは『死神ヤマも降す者』の意味で、降閻魔尊ともよばれる。またヴァジュラバイラヴァ(vajrabhairava 『仏の永遠不壊の叡智を有する畏るべき者』)、ヤマーリ(yamāri 『死神ヤマの敵』)、マヒシャサンヴァラ (mahișasaṃvara 『水牛を押し止める者』)ともいう。三摩耶形は棍棒であるが、タロットの棍棒は火の元素を象徴している。トランプだとクローバーとなる。種字はキリーク。


このヴァジュラバイラヴァのバイラヴァとは、シヴァ神の最も強暴な面「バイラヴァ」のことである。また、マヒシャサンヴァラのマヒシャとは、インド神話で女神ドゥルガーと戦った水牛の姿のアスラ神族の王のことである。


チベット密教最大宗派であるゲルク派では、無上瑜伽タントラの主要な五タントラの一つとして『ヴァジュラバイラヴァ』のテキストを取り上げてその重要な本尊と位置づけている。ヴァジュラバイラヴァは、ゲルク派において、宗祖ツォンカパ大師の守護尊(イダム)であるため、重要視されている。ヤマーンタカ=ヴァジュラバイラヴァは、おもに、青黒肌で水牛の忿怒相を中心とする九面、三十四臂、十六足の多面多臂多脚で、手にカルトリ刀、頭蓋骨杯、梵天の首、串刺しの人間を持っている。また、妃ヴァジュラヴェーターリーと交合するヤブユム尊もある。 


チベットの伝説では、昔、ある修行僧が悟りを開く直前に盗賊に襲われ、乗っていた水牛と共に首をはねられて殺された。悟りを邪魔された修行僧の怒りは凄まじく、側に落ちていた水牛の首を拾って自分の胴体に繋げ、盗賊達を皆殺しにした。しかし、その後関係のない人々をも無差別に殺す悪魔に成り果ててしまった。これに困った人々は文殊菩薩に祈願したところ、文殊菩薩はその悪魔と同じような牛面で、しかも悪魔以上の手足と武器をもった姿に変化して戦い、ついに悪魔を倒した。この時の文殊菩薩の御姿が大威徳明王(ヤマーンタカ)なのである。


しかし、なぜヤマーンタカは頭が水牛なのだろうか?水牛は怒り出すと極めて危険な存在になるらしく、虎などもこれを避けると言われている。さらに、牛頭=トリケラトプス説を加味してみると、爬虫類人種の特徴を明王部が表しているである。鬼子母神もそうなのだが仏教に帰依した仏尊は普通は角が取れて表現される、しかしヤマーンタカの角は水牛のままである。つまり、よほど『角』の特徴を伝えたかったのではないか?タンカのヤマーンタカを見るに、広げた腕がビビッドな『翼』のように見えなくもない。カラフルな羽毛は羽毛恐竜の特徴でもある。


明王部はアスラだらけで、インド密教がゾロアスター教(拝火教)を取り込んでヒンズーに対抗していたのがわかる。アスラ神族は爬虫類的特徴が極めて多い。マヒシャだけでなく、インドラのライバルであるヴリトラも巨大な龍の姿をしていたと伝えられている。


日本では、大威徳明王は六面六臂六脚で、神の使いである水牛にまたがっている姿で表現されるのが一般的である。


6つの顔や腕は六道(地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人間界、天上界)にそれぞれ対応しており、6本の足は六波羅密(布施、自戒、忍辱、精進、禅定、智慧)に対応しているようだ。以前、死にそうになった時に思ったのが、己の魂生の六道輪廻は同時に連動しており、人間界や天界の寿命を伸ばそうとも、同時に地獄や餓鬼、畜生の寿命も伸びてしまうように六道はリンクしてるんじゃないのか?ということ。夭折は不幸だが、同時に地獄の刑期が終わったと思えば幸福である。後で勉強し直したら、十界互具という天台の教説がその思考にかなり似ていた。大威徳はこれら六道の互具をパラレルに見渡すことができる。同時に見渡すわけである。とすれば、人は人間界で死んで時間の経過と共に、天界や地獄に赴くわけでなく、六道の現象は全て同時に起こっているのである。この時間の経過を否定した考え方を「即」という。般若心経の「即」である。


この時間の経過を否定した「即」だが、明王部では降三世明王に最も色濃く反映されていると思う。


降三世明王はヒンズーの最高神のシヴァ神を踏み殺し、すぐさま再生させたという。シヴァの本質は「時間(カーラ)」なので、時間の経過の否定と超越を表した象徴的神話だと思われる。また、時間性の否定の本来の意味ではないが、不老不死も時間の超越と捉えられていた節がある。


爬虫類人種の寿命が特別長かったのならば、その不死性を降三世明王は表現しているのかもしれない。降三世と勝三世が兄弟神であるところにもそれを感じる。それは、またあとで話すとしよう。以下は五大明王の爬虫類人種的特性である。


東方 降三世明王 『寿命』

南方 軍荼利明王 クンダリニー『蛇の尾』

西方 大威徳明王 牛頭、トリケラ『角』

北方 金剛夜叉明王 『牙』

中央 不動明王 『倶利伽羅龍』